子捨て谷で赤子は泣く

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暫く歩くと、虫や風の音にまじり、何やら今までに聴こえることのなかった音が聞こえてきた。 ゴォォー、ゴォォー 不気味な音だった……。しかしさっきの案内通り滝に向かっているのならば、この音はおそらく、滝から水の落ちる音に違いなかった。 本来、滝の音には癒し効果があるといわれるが、このような暗闇の中で、恐怖に怯えながら歩く人にとって、不気味な音以外の何物でもなかった。 ゆっくりと歩き続ける俺。次第に大きくなる滝の音。しかし正面を照らす懐中電灯の明かりには、未だ生い茂る木々と、土の道しか見えていなかった。 そろそろ800m程は歩いた気がする。しかし一向に着く気配はない。 そういえば、前にも同じ経験をしたことがある。 それは一人でS山トンネルに行った時だ。 トンネルの長さは僅か400m程。それに出口も見えているのだが、いくら歩いても出口には辿り着けないのである。 いや……実際には直ぐ出口に着いたはずだ。しかし、俺の中にあった恐怖心が心霊スポットにいる時間を長く感じさせたのだ。 今まさにそれと同じ様な現象が起きている。 今俺は恐怖のお陰で、実際の時間の二倍にも三倍にも長く感じさせられているのだ。
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