子捨て谷で赤子は泣く

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「赤子の泣き声がお前の耳に残ってるんだよ。だから、静かになった時に聞こえるんだ」 栄太は言いきった。何だが無理矢理こじつけたみたいな感じだが、なんとなく納得出来なくもない。 でも…… 「心霊現象かも知れないだろ?」 弱気な一言だった。口調も弱かった。 「まぁ、最初の泣き声や慰霊碑でお前が見たっていう赤子は本当に心霊現象なのかもしれない。でも、子捨て谷から出たお前に憑きまとっているのは、霊じゃなくてあの時の恐怖が生み出した幻想だと思うんだよ……ってかそれでいいじゃん。そう思った方が楽だぞ」 「そうかな……」 「そうだよ。そうだって!……ということで何で彩ちゃんと別れたのか聞かせろよ」 栄太は自分の理論を言い終えると、笑顔で別れた理由を聞いてきた。 何だか栄太のこじつけの理屈に無理矢理納得させられただけのような気がするが、その理屈を聞いてどこか安心している自分がいた。それに心なしか、赤子の霊に対する恐怖が薄れているような気がした。 何だか栄太に上手いこと丸め込まれているのでは?と疑問に感じながらも、彩と別れた理由を栄太に話した。
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