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それから俺と栄太は一時間、途切れる事なく会話を続けた。
子捨て谷のこと。
俺に襲いかかる謎の泣き声のこと。
これから行くお寺のこと。
そして彩とのこと。
栄太に訊かれるままに俺は答えていた。
しかし、栄太が話しかけてくれることで、眠気を我慢することが出来た。
そして時間は経ち、バス停にバスがやって来くると、俺たちはバスに乗り込み椅子に座った。
他にバスの中には客はいなく、貸し切り状態であった。
途中、停留所に止まる事はなく、遂には誰も乗らないまま目的地に到着した。
俺たちはお金を払い、バスを降りた。
俺たちが居るのは、田んぼに囲まれたバスの停留所。周囲には民家が数件。車が殆ど通らない県道。そして、目的の寺への道案内の看板。
俺たちは看板を見た。
『厳玄寺』
と、木製の看板の真ん中にかなりの達筆で、でかでかと書かれていた。
「げん…げん…じ?」
俺が適当に看板の文字を読んでいると、栄太はさりげなく言った。
「ごんげんじ……。ってかげんげんじって何だよ。変な名前だな」
ニヤニヤと栄太は笑っている。俺が間違えたのが嬉しい様だった。
それにしても、厳玄寺か……。何か厳しそうな名前だな。
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