第三章

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   宗が煉に弄られていた頃、ある空港に1人の初老の男性が、日本の土を踏んだ。髪は染め抜いた様に見事に白髪で、目尻の皺と表情が柔和な印象を与える。  「………英様の話しでは………ここにあの御方が………。」  男性は皺が刻み込まれた目尻を押さえ、周囲を見渡す。  その目の端に、自分と同じ年頃の男性の背中を捕えた。  ………そう言えば、英様の所属する学校は世界でも有数な有名学園だった筈。あちらの御人に聞いてみましょうか。  初老の男性が近づくと、気配を察したのか、男が振り向いた。  「…………なーんだ。久々に日本に帰って来て、可愛い教え子達と遊べると、浮かれ気分でいたら、最初に会ったのがお前さんか。ガッカリだな。」  振り向いたその顔は、口振りこそ悪いが、細い銀縁の眼鏡を鼻で掛け、知的な雰囲気を漂わせた紳士。鳶色の瞳が思慮深さを表す。  「……………失礼。人違いでしたな。」  初老の男性は、無遠慮な物言いに、眉一つ動かさず、回れ右をして歩きだした。それに慌てたのは眼鏡の男性だ。  「えっ。ちょっと待ってよハニー!!数十年ぶりの再開でしょっ!!僕ですよー!」  大きな声を出され、周囲の好奇心の目に晒された初老の男性は、足を止めて笑顔で振り向いた。  「……………貴方の様な頭の軽い男性に、ハニーと呼ばれる筋合いも、何処かで会った記憶も、塵、芥もございませんが?」  「うっわー。凄い眩しい微笑み。相変わらずだねソレイユ国の家令さんは。…………どうせハニーもあの子の事で日本に来たんでしょ?僕もその事で、中国から帰って来たところだ。案内するよ。」  眼鏡の男は有無を言わせず荷物をひったくる。  「何処のどなたか存じ上げませんが、親切に有り難うございます。プロフェッサー。」  「存じ上げてるよね。それと、元教授だから。ま、名誉教授にはなってるけど。」  「私も家令では無く、執事です。」  「…………お互い齢食うと物忘れ酷いね。」  二人で苦笑すると、黙って歩きだした。
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