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上手く行った。狸は雑木林を歩きながらほくそ笑む。
「たまーに休みも必要なんじゃ。まったく。いくらワシでも、同じ事をやっておったら疲れてしまうわい。さーて………何処かでお茶でも買ってさぼるか。」
狸が雑木林の中にある余り人の来ない東屋に、自動販売機で買ったお茶を持って向かうと、珍しく先客が居た。
………結構寒くなって来ておるのに、物好きがおるのー……。
狸は気が付かれない様にその東屋に近づく。
狸が隙間から覗いてみると、その先客は白い息を吐きながらも、何処か嬉しそうに、本を読んでいた。
少し長めの髪の毛を襟足の辺りで結び、前髪が邪魔なのか、定期的に掻き上げながら文字をなぞる姿は、とても姿勢が良く、凛としている。
………ふむ。近頃の若者には珍しく振る舞いが良い。しかも……珍しいのはあの髪の毛と目の色じゃ。栗毛色に琥珀の瞳。琥珀と行っても少し色の濃い、上品な色じゃな。
「……クシュッ……!」
覗いて観察していたら、その人物は小さなくしゃみをした。
…………まあ、あのような薄着ででは寒いだろうな。
狸はその人物の隣に滑り込む。
「……?」
突然現れた小動物に、その人物は驚いていたが、無言で狸の頭を撫でた。
狸が優しい撫で方に目を細めていたが、目的を果たす為、ピョン!と肩に飛び乗ると、首の周りに自分の身体を巻き付ける。
「………温かい……。」
狸にも聞こえるか聞こえ無いかの小さな声で呟くと、もう一度狸の頭を撫でた。
「……有り難う。狸さん。」
どういたしまして。狸は返事の代わりに、その人物の頬をペロリと舐める。相手はくすぐったそうにしていたが、再び本に集中し始める。
…………ふむふむ。表情は乏しいが、顔は結構整っておるの。おや?よくよく見ると、額に薄らと傷後があるの。どうかしたんじゃろうか?
狸が観察していると、背後に気配を感じた。
「天狗様。あんた何してんですか?ウチの子達と薬嗣、心配してますよ。」
「!!!!」
見つかった狸よりも、一緒に居る人物が、真っ青になるのを、煉は見逃さなかった。
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