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「おい。あんた…って……ええっっ?!ちょっとっっ!!速いんですけどっっ!!!」
煉が狸と一緒に居た人物に声を掛けた瞬間、脱兎の如く逃げ去った。その素早さと言ったら、オリンピック選手も真っ青になるぐらいの素早さだった。
「ええぇ~……。何で?俺、声掛けただけなのに。」
「あんな剣呑に声を掛けるからじゃ。まったく。久々に居心地の良い友人が出来そうだったのにのー。」
「…………そうは言いましても。貴方に何かありましたら、俺、腹を切らんといかんでしょ。友人を作るのは良いですが、くれぐれもお気をつけてください。」
煉に言われると、狸は頭を掻いた。
「お主に心配されるようなら、ワシの人生、終わったな。」
「酷えなー。ところで天狗様。あの御人、誰ですかい?」
「……あれはな………。」
狸が勿体ぶる様に空を仰ぐ。その様子を見た煉は、全てを悟った。
「名前、聞いてませんね?」
「あ……東屋の妖精さんじゃ!」
煉が狸を持ち上げる。普段なら真っ直ぐと人を見るクセに、微妙に目線を合わせない。
「…………あんた。言ってて恥ずかしく無いんですかい?え?神々の次代帝様。つーか。知らない人にホイホイ話し掛けちゃいけません!狸汁にされたらどうするんですっっ!!」
「なんじゃいっっ!!今のワシに必要なのは、一時の潤いなんじゃっっ!文句なら、鬼事務局長に言えっっ!!」
「天狗様でさえ文句言えないのに、俺が言えると思いますかっっ?!」
「無理じゃな。ま、さっきの御人は後程捜すとしよう。」
狸は煉から離れると、隠して置いたペットボトルを持って来て、封を開け、どっこいしょと腰を掛けた。
「これ飲んでから帰るからの。」
それだけ伝えると、美味しそうにお茶を飲み始めた。………但し、座っているのは、東屋の椅子では無く、煉の頭の上で。
「だーかーらっっ!俺の頭は御狸様の椅子じゃねえっっ!!」
どうせ言っても無駄だと分かっているが、叫ばずにはいられない、煉だった。
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