第一章

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   「ただいまー。涼。良い子にしてたか?」  煉が狸を頭に乗っけたまま、事務所に入って行くと、涼がパソコンに向かって、何やら難しい顔をしている。  「ほら。お前の大好きな御狸様だよー。眉間にシワ寄せてどしたの?」  「とう……じゃなくて……。焔樹さん。警察からメールが来てまして………その……。又、そっちの仕事をお願いでいないかと…………。」  「そっちの仕事~?あ。陰陽師ね。なになに?康毅くん、誰か呪い殺して欲しいワケ?」  「馬鹿じゃのー。あそこには忍者服部君を含め、優秀なSPが居るんじゃぞ。呪わなくとも簡単に暗殺できるじゃろ。」  普通のSPは暗殺などはしないのでは?と言う疑問が起きたが、忍者服部君が普通のSPでもない事実を知っているので、その辺りは黙っている事にする。  警察と言っても、所轄と呼ばれる所では無く、本庁。つまりは警視庁だ。元々、警視総監である、徳川康毅(やすき)と、同級生であった涼の関係で縁ができ、今では、不思議な事件が起きると、時々、煉や桔梗の助言を受けにやって来る。どうも、この大学を警視庁の分室程度にしか思っている節がある。  「呪いでは無いみたいですよ。…………どうやら人捜しみたいです。」  「え゛え゛~。人捜しなんか、警察の組織力を持ってすれば一発じゃん。」  煉は狸を涼に渡すと、パソコンを覗き込む。そこには、馴染みの警視総監の顔が映っていた。  『おや。ご本人さんがいらっしゃいましたか。』  「うわお。便利な世の中になったのねぇ。俺が捜さなくても康毅くんが号令掛けたら一発でしょ?」  『ええそうなんですが……捜す相手が死んでいた場合だと、結構手間なんで。その上、死んでいた場合、死者と話しをしたいと、相手方の希望なんですよー。流石のウチの忍者服部君も無理なんで、お願いしたいなーと。』  画面上でニコニコ笑っている康毅とは正反対に、現実世界の三人は、怖いぐらい、真剣な顔付きになっていた。
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