第二章

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   狸は暫しむっつりとしていたが、重い口を開いて言った。  「ワシの能力は使わん。断固拒否じゃ。」  そもそも、と断りを入れて言葉を続ける。  「確かにワシの能力なら見つけられるやもしれん。じゃがな。ワシ、意識して使った事無いぞ?」  狸は自分の能力は便利だが、余り好きではない。確かに助かる情報を引き出す事が大半で、今の立場では重宝している。だがその反面、狸の意に反して余計な秘密まで暴き出す事がある。狸はそれが嫌なのだ。生きていれば他人には言えない秘密の一つや二つあるだろう。それが楽しい事ならば結構。だが、大抵秘密と言うモノは後ろ暗いものか悲しいものである。それを好む好まざるにしろ、悠久の時の中で見てきた狸は、余程の事が無い限り、この能力は使わないと決めている。最も、意識して使わなくても知ってしまう事は、仕方が無いとあきらめてはいるが。  「どうしても使えと言うなら………。ワシは逃げる。」  「あきらめてください。焔樹さん。」  涼は即座に言った。涼の中では大好き二名だが、実は狸と天秤に掛けると狸の方が遥かに重い。育てられたという事も理由だが、煉ならなんとか捜し出せる可能性は、ほんの少しだがある。が、狸はそうもいかない。白狸村の例が物語る。あの三帝ですら白狸村に居ると判っていながら、狸そのものは見つけられないでいたのだ。そして、煉は行方を眩ましている間仕事はする。狸は全くしていない。もし此処で狸が出奔してしまったら………。  「炎帝、今度こそ倒れるでしょうね。過労死もあり得るかも。」  「いや、死なないし死ねないし。………何。俺悪者?だってしょうがないじゃないの!一番手っ取り早いのこの方法しか無いんだから!」  狸と涼に冷ややかな目線と言葉を貰って、少しばかり焦ってしていると、突然爆音と共に、ドアがぶっ飛んだ。  「大丈夫ですよ?お祖父様。お父様は知らないと思いますが、多分我が神は師匠が出会っていると思いますから。」  もうもうと立ち込める煙の中、破壊された入り口に一人の青年が立っていた。  「薫樹英。只今戻りました。ああ、少しばかり火薬の量が多かったみたいですね。」  爽やかな笑顔の英とは対照に、英を見た三人は同時に頭を抱えてしまった。
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