第二章

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   「…………ええと。どちら様かな?」  突然抱きついてきた青年を薬嗣が、まじまじと見る。正確には見上げるだが。顔は以前会った聖に良く似ているが、身長は一回り以上大きい。しかも、がっしりと抱き締める身体は、見た目と印象が違い、以外と筋肉がついているのか、身動きが取れない。何となく、宗に抱き締められている時と同じ感覚だ。  「ああ!失礼致しました。薬嗣様は、あちらでの記憶は無くされていたのでしたね。俺は宗兄上の弟で、英と申します。」  ニコニコと笑うその顔は、先程八朔に食って掛かっていた青年とは別人みたいだ。  「………英坊。そんなにがっちりと小僧を押さえ込んでおったら小僧が苦しかろうに。離してやらんか。後の。理由はどうであれ、ドアを爆発したのはお前さんじゃろ?ちゃんと弁償するんじゃ。良いな?」  煉の頭に乗った狸が、淡々と諭す様に話しをすると、英は頷いた。  「解りました。老師の御言葉とあれば聞き入れます。薬嗣様にも度重なる御無礼、失礼致しました。………宗兄上も。」  「良いですよ。」  苦笑いはしているが、宗は余り怒っていないようだ。何時もなら薬嗣が誰かに触れられるだけで、嫉妬と嫌悪感を顕にしているのに、以外と冷静だ。  薬嗣はそれが気になり、多分状況を一番把握しているであろう狸に、その事をぶつけてみた。  「んー?……そうか、まだそこまで思い出してはおらんかったの。英坊はな、ワシが『武』を教えたんじゃが、『文』を教えたのが小僧じゃからな。小僧の初めての弟子にして、当然何時も隣に居た坊も一緒に教えたおったんじゃ。そうじゃなーこういうのはなんて言うのじゃったかの?煉。」  「一応、お約束なんで先に苦情、言っておきますが、俺の頭、御狸様の椅子じゃねえっスよ。答えは初めての共同作業。」  「うむ。………と、言う訳なんじゃ。言わば、二人の子供みたいなもんじゃな。英坊は。」  「お目当でとう薬嗣。色んな手順をぶっ飛ばして、いきなり子持ちだ。」  「めでたくねえだろっっ!!」  久々に薬嗣の突っ込みが、事務所内に響き渡った。
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