第三章

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   「でもさ。泉さん、体調悪いって……。」  「体調悪いって言うか、蛍さんが居眠りする事態がちょっと変だったからね。ま、何とも無いと思うけど、高等部のアイドルは守らねば。」  職員室のドアの前に立って、開けようとすると、桔梗がその手を制する。  「…………お前の目から見てどうなんだ?」  政は神社の宮司と言う事もあり、普通の人間には見えない物や事柄を無意識で探り出す。簡単に言えば、桔梗達神にも劣らず、勘が良いのだ。  「ぶっちゃけ、今まで見た気配の中で、一番綺麗。例えるなら………そう。澄んだ空気の晩秋の森を、一人詩集を読んでいる乙女?みたいな。」  「お前の例えは今一理解できん。」  それでも、今までの中では一番清浄な空気を纏っていると言う事は理解できた。  「此処に来る前に良い事でもあったのかな?」  「桔梗で例えるなら、拾った財布の中身がお金ではなく、お菓子でギッチリだったみたいにか?拾い食いはいかんぞ。」  「最近、拾い食いしなくなったよ?」  「ほほう。誰かの躾が良いからだな。」  「………言ってろ。泉司書、入ります。」  桔梗がドアを開くと、蛍が丁度起きた所だった。  「…………あ……。ごめんなさい……。寝てたみたいで……。」  小さいながらも、耳障りの良い声が響く。蛍は、学生にも知れ渡っている程、恥ずかしがり屋な上、口下手だ。しかし、その誰よりも実直で、清廉潔白な性格が皆に好かれており、加えて、学生達の悩み事を真剣に聞いてくれる。口も固く、高等部のカウンセラー的存在でもある。  口下手や人見知り等、全く意に介さない程の人気者だ。  「大丈夫ですって。八朔さん、一日図書室長やってくれてますから、今日は早く帰って休んでください。」  「え………。月草館長が……?」  蛍が慌て立ち上がるが、それを政が止めた。  「良いってば。八朔さん、久々の司書業務で張り切ってますから。蛍さんが居眠りって珍しいよねー?良い夢見れました?」  「…………夢……。あの………良かったら、聞いてもらえるかな?」  珍しく積極的な蛍に、三人共、快く頷いた。
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