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「ほほう。それは面白い夢を。」
蛍から夢で出て来た青年の話しと、夢の中の蛍の様子を聞いて、三人は何とも奇妙な気分になった。
「…………変……だよね?」
おずおずと感想を聞こうとする蛍に、政はニッコリと笑った。
「大丈夫。この世の中で、桔梗程、変なモノは無いから。」
「……………お前とは何時か決着つけようと思う。」
「俺はお前と二人きりにはなりたくない。故に断る。」
桔梗と政のやり取りを見ながら、千幸と蛍は笑った。
「でも悪い夢では無いですよね?」
「はい。………凄く懐かしい夢でした。」
「うーん。蛍さんには良い夢だったと言う事は………蛍さん。唐突だけど、此処に来る前に変わった事なかった?瑞兆の前は、何かしら変わった出来事が起こる筈なんだけどな。」
「変わった事……ですか?」
変わった事がどうかは分からない……。でもあるとしたら。
「あの……雑木林で……狸さんに会いました。黄色で、フカフカな狸さんです。」
…………た・ぬ・き……。て、この学園で狸と言ったら一匹しか居ない。
桔梗と千幸は瞬時に同じ事を考えた。
「へえー。黄色い狸って珍しいね。狸って、人を化かすとか余り良いイメージが無いけど、『山海経』では、首周りの白い『天狗(てんこう)と言う神獣は、マフラーみたいにに首に巻くと、凶事を防ぐ能力がある』と書いてあるんだよね。」
「そう言えば……首の所が真っ白でした。」
「あれ。じゃあその狸かなー?蛍さんに良い夢見させてくれたの。」
和やかに話す事情の知らない二人。一方、事情の知ってる二人は。
「……バレバレじゃん。桔梗。」
「……………あの狸め……。大人しく薬嗣の部屋で、繋がれていれば良いものを……。」
「多分繋いでも脱走すると思う。あーあ。狸に一泡吹かせると思ってたのにな。………何だよ。」
ぼやく千幸を桔梗が見つめていた。
「いや……お前、あの狸の事好きじゃなかったか?」
「大好きだよ?でもさ。たまには俺だって驚かせたいっ!」
「そうか。」
……では。違う事で狸をギャフンと言わせて、この年下の友人を喜ばせてやろうと、桔梗は心の中で笑った。
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