第一章

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   千雪は桔梗から黙って話しを聞いていた。  高等部の生徒会室で、会長である律も同席の上である。  「………お前の村にはもう誰も居ない。人どころか、『氷清村』と言う存在そのものが、人々の記憶から消え去った。」  淡々と語る言葉に千雪は、何処か他人毎の様に感じていた。  図書館での殺人事件以来、度々狸や桔梗から事件のあらましを聞いて、事件の鍵を握っていた薬物が、自分の村で栽培されていたと聞き、『ああ、多分自分の村はもう駄目だろう。自分がどんなに止めても、狸や桔梗は絶対に容赦しない。』そんな風に心の隅で思っていた。  「桔梗さ、………母さんは、許してくれたんだ。」     「お前の母には何も罪は無い。俺が裁くモノは、罪を重ね、後戻りが出来なくなったモノだけだ。恨むなら恨め。」  モノ。物か者か。両方なのか。桔梗を見て千雪は、神の重さを感じる。  自分があの村を出て、煉に保護されて、ぬくぬくと平穏に暮らしていた間、母親も桔梗も狸も……尊敬する教授も皆何か重みを背負っていた。自分の腑甲斐なさは感じるが、恨みなどはまったく起きない。  「桔梗兄……。」  黙ってしまった千雪の代わりに律が口を開く。  「お前も桔梗兄の呼び名が復活か?」  「う………だって……俺達兄弟にとって、桔梗兄は兄貴みたいなものだし。じゃなくて!恨むとか恨めとか言われたら千雪が困ると思う。千雪、桔梗兄、恨んでないよ?多分、自分の事で後悔中。」  あっけらかんと言い放つ律に、桔梗は笑った。  「お前は本当に良い神官長だな。自分の神の事を神以上に解っている。」  「可愛いよなー。ウチの会長。うん。母さんの時から俺は後悔しないって決めたんだ!本当はさ。母さんの時に狸が村の事残してくれたのが不思議だった。多分、それは狸の仕事じゃなく、桔梗の仕事だったからだな。」  「………さあ。そこまで考えていたかどうか。何しろ奴は狸だ。」  「…………………。桔梗って狸嫌い?」  「俺は千雪が好きな奴皆キライだぞっ!!」  「会長。じゃあ桔梗も嫌いなのか?」  「桔梗兄は別格!!」  「あの狸もこのぐらい分かりやすい性格なら苦労もしないだろうな。」  抱き付こうとする律をかわしながら、桔梗は呟いた。
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