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千雪は桔梗から黙って話しを聞いていた。
高等部の生徒会室で、会長である律も同席の上である。
「………お前の村にはもう誰も居ない。人どころか、『氷清村』と言う存在そのものが、人々の記憶から消え去った。」
淡々と語る言葉に千雪は、何処か他人毎の様に感じていた。
図書館での殺人事件以来、度々狸や桔梗から事件のあらましを聞いて、事件の鍵を握っていた薬物が、自分の村で栽培されていたと聞き、『ああ、多分自分の村はもう駄目だろう。自分がどんなに止めても、狸や桔梗は絶対に容赦しない。』そんな風に心の隅で思っていた。
「桔梗さ、………母さんは、許してくれたんだ。」
「お前の母には何も罪は無い。俺が裁くモノは、罪を重ね、後戻りが出来なくなったモノだけだ。恨むなら恨め。」
モノ。物か者か。両方なのか。桔梗を見て千雪は、神の重さを感じる。
自分があの村を出て、煉に保護されて、ぬくぬくと平穏に暮らしていた間、母親も桔梗も狸も……尊敬する教授も皆何か重みを背負っていた。自分の腑甲斐なさは感じるが、恨みなどはまったく起きない。
「桔梗兄……。」
黙ってしまった千雪の代わりに律が口を開く。
「お前も桔梗兄の呼び名が復活か?」
「う………だって……俺達兄弟にとって、桔梗兄は兄貴みたいなものだし。じゃなくて!恨むとか恨めとか言われたら千雪が困ると思う。千雪、桔梗兄、恨んでないよ?多分、自分の事で後悔中。」
あっけらかんと言い放つ律に、桔梗は笑った。
「お前は本当に良い神官長だな。自分の神の事を神以上に解っている。」
「可愛いよなー。ウチの会長。うん。母さんの時から俺は後悔しないって決めたんだ!本当はさ。母さんの時に狸が村の事残してくれたのが不思議だった。多分、それは狸の仕事じゃなく、桔梗の仕事だったからだな。」
「………さあ。そこまで考えていたかどうか。何しろ奴は狸だ。」
「…………………。桔梗って狸嫌い?」
「俺は千雪が好きな奴皆キライだぞっ!!」
「会長。じゃあ桔梗も嫌いなのか?」
「桔梗兄は別格!!」
「あの狸もこのぐらい分かりやすい性格なら苦労もしないだろうな。」
抱き付こうとする律をかわしながら、桔梗は呟いた。
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