第三章

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   「あ。メール。ちょい待ち。」  政は、校舎を出た所で、他の三人を引き止めた。千幸の提案で、蛍の気分転換も兼ねて、民俗学棟へ向かうところだった。  「………あー。悪い。やっぱ、俺帰るわ。」  「家で何かあったのか?」  「んー。何かあったワケじゃないけど、オッサンが晩飯鍋にするから早めに帰って来いってさ。」  「さっきもオッサンて、言ってたな。十(とお)さんと違うのか?」  政は数年前に父親を亡くしていて、母親は政が産まれて間もなく亡くなっていた。特殊な理由で、『十(とお)』と呼ばれる、年の頃は薬嗣と同じぐらいの男性と暮している。因みに、本名不明、年齢不明、国籍不明の、この上なく怪しい人物だが、一度会った相手から『絶対悪い事は出来ない』と、太鼓判を押される好人物だ。  「十さんとオッサン一緒にすんな。オッサンはな、何か良くわからない。十さんの関係者なんだけどなー。その関係で、時々御飯作りに来てくれる。これが美味いんだな。」  言っているのは、キッパリとしていて、歯切れが良い。だが、内容が問題だ。  「政。大らか過ぎるにも程があるだろう。少し警戒するとか、疑うとかしろ。」  「そうだぞー。十さんはたまたま良い人だから良かったけど、世の中には悪い人間一杯居るんだからな。」  桔梗と千幸が注意を促すと。それに呼応したのか、蛍も頷いた。  「心配、サンキューな。けどなー。あのオッサンが悪い奴なら……差し詰め桔梗は結婚詐欺師。みたいな?」  「みたいな?って何だ。俺は詐欺した事は無い。」  政は、少しだけ憤慨する桔梗の肩を叩くと、ニンマリと笑った。  「君。知らんだろうけど、星の数程の女性が、君に恋い焦がれ、最近、その恋破れて泣いているのよ?」  「……………興味の無い話しだ。俺は八朔以外に興味は無い。」  掴まれた手をペシっと叩いてやると、政は大げさに痛がった。  「酷いわー。桔梗ちゃん。何気に惚気ちゃってー。………れ?又メール。」  「今度は誰だ?」  桔梗が覗き込むと、メールの発信者は薬嗣だった。
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