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「一針一針に思いを込めて~ザックザク~。」
………ヤバイ。歌うたいだしちゃったよ。この狸様。
歌と言うより呟きながら服を縫い付けている。薬嗣が講義から帰ってくると、教授室は文化祭で使用する色とりどりの衣服で溢れかえっていた。
「ウチの講義って一枠50分で、今回は連続講義だったから1時間40分。…………その間にこんなに縫ってたら………。」
こうなるか。薬嗣が帰ってきた事に全く気が付かない狸をチラリと見ると、キッチンに入って行った。
「狸。」
「ほ?帰っておったのか?小僧。」
苦笑いしながら薬嗣は狸を抱き上げて、自分の机に座らせる。
「ちょっと休みなよ。宗が作ったパウンドケーキがあったからさ。狸の好きな渋いお茶も淹れたよ。」
「おお………小僧は良い子じゃのう~。では有り難く頂きます。」
狸が熱いお茶を一口啜り、パウンドケーキを頬張る。
「美味い。ホッと一息じゃあ~。」
狸はホクホクと嬉しげに髭を揺らした。
「後、何着あるの?」
出来た衣服をハンガーに掛けて、部屋の吊らせられそうな所に掛けながら薬嗣は聞いた。掛けながら数えると、完成したのも含めて10着はある。家にもこれの倍はあるので、30着前後ぐらい縫い上げた計算だ。
「カフェは1週間開催。小僧・坊・八朔・桔梗・ゆき・煉………そしてワシの分を含めて8人×7日=56着じゃっっ!!こんなんならワシ、天界で書類整理しといた方がまだマシじゃぞっっ!しかもただ働きじゃいっっ!」
「狸も民俗学部の一員だ。無給なのは当たり前だろうが。よっ!薬嗣。今、ちょっと良いか?」
「みかん。今日は図書館で後始末するんじゃなかったのか?」
「の、予定だったんだがな。………ちょっと相談があってな。」
珍しく真剣だったので、狸と薬嗣は顔を見合せた。
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