第一章

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   薬嗣は色々考えて、結論を出した。  「蛍ちゃんは無理。あの子の性格、みかんだって知ってるだろ?」  「知ってる。だがな、あの子しか居ないんだ。加納に館長させたら、図書館が倒産する。」  学校の図書館に倒産も無いだろうと思いながら、薬嗣はお茶のおかわりを淹れた。  「それでも無理だって。学生だから接してられるみたいだけど、あの対人関係が苦手なのは筋金入りだ。俺とお前だって、泉教授の関係者じゃなきゃ、姿だって見せて貰えないぞ?本の知識はお前と同等、調べものをしている利用者には、こっそりと必要な本を渡し、乱れた本棚を人知れず直す。誰よりも早く図書室に出勤し、誰よりも遅く退勤する。喋る事は少ないが、図書室で騒ぐ輩には容赦無く言葉の刃で心臓をえぐり、暴れ者には正座をさせて説教。その説教も、古文・漢文から引用される為、受けている者に取って悠久の時に感じるという。だが、質問に対しては、誰よりも解りやすく、親切に教えてくれる。蛍ちゃんのお蔭で、進路を切り開けた学生は少なくない。そんな蛍ちゃんに付いたあだ名はなんだった?」  「………………千樹学園の文昌帝君(ぶんしょうていくん。道教の学問の神様で受験の神様でもある。)……。」  「そ。文昌帝君の様に、人柄も良く、教えるのは親切丁寧。高等部の密かな人気者。………本人の性格もさる事ながら、高等部から蛍ちゃん取り上げてみろ。恨まれるぞ~?」  薬嗣は脅かす様に言うと、八朔は渋い顔をして、コーヒーを飲み干すと、乱暴にカップを置いた。  「だからお前に相談してるんじゃねえかっっ!!俺の後釜決らねえと、お前の事務長できねえぞ?!」  「怒るなよ。………さーてどうしたら良いかな?狸……?」  狸は今までの話しを黙って聞いていた。何時もなら合いの手や突っ込みを入れそうなのに、何も言わないので不信に思い、薬嗣が覗き込むと、スピスピと鼻を鳴らしながら、うたた寝をしていた。  「………みかんが無理させるから。狸なら良い案が思い浮かんだかもよ?」  「う……。」  狸の寝顔を見ながら、そう言えば秘書はどうした?薬嗣は、ふと思った。
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