第一章

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   秘書がどうしたかと言うと、民俗学部研究棟の入り口にある、民俗学部事務局兼受付で、重い殺気を放っていた。  「空気、重いんですけど?」  「…………文句ならこの目の前に居る、役立たない理事長に言ってください。」  「文句なら、この目の前に居る、役立たない秘書に言ってください。」  視線を逸らさず、間に立とうものなら、その視線で殺されそうな嫌悪な雰囲気の中、煉は新聞を閉じた。  「派手にやっちゃったねぇ。誰に似たんだか。……………二人共。これ以上俺の前で歪みあうなら………俺、又、放浪しちゃうよ?」  「「止めます。」」  涼と宗は同時に口を開いた。何せこの父であり、祖父は、冬神事件以前、道摩以外には誰にも知らせず、数百年行方を眩ませていた事実がある。神である時もそうだったが、どうやら自由を好むので、放浪するのが大好きらしい。四皇神としての仕事を疎かにしている訳ではないので、三帝は別段文句を言わないが、身内にとっては大事なのだ。涼と宗にとっても大好きな父、祖父が不在なのは嫌なので、機嫌を損ねない様にするので一杯一杯。  煉をそれを知っているので、二人の喧嘩を適当に切り上げたい時の免罪符として『放浪の旅に出る』と切り出す事にしている。  「で。何時帰って来るの?俺の三人目の孫は。」  「それが………今日なんです。」  涼は困った顔をしながら答えると溜め息を吐く。  「『不在でした。取り敢えず掃除してから帰ります。』と、メールが来てから一ヶ月。」  「革命起こして帰ってきちゃう訳ね。まあ、らしいと言っちゃあ、らしいか。顔も性格も聖ちゃんそっくりだからねー。」  煉はゲラゲラと笑いながら冷蔵庫から冷茶を取り出しグラスに注ぐと、二人に手渡した。  「元々、前の王様が亡くなってから独裁政治で、国民の不満も国際社会の批判も散々浴びてきた国だ。頭がすげ替えられるのは万々歳だろ。ましてや、その頭が正当後継者では無いと来てる。………お前等が心配するような事にはならんから安心しろよ。」  煉は男臭い笑みを浮かべて自分でも冷茶を飲み干す。  「お祖父様って………知らない内に色々知っていますよね。」  「そりゃあね。伊達に放浪してませんって。」  煉はもう一度、ゲラゲラと笑った。
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