第1章~徹夜の仕事~

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 周りが騒めく。  彼等はモンスターを倒してくれた冒険者が、モンスターを連れている少女に気軽に話し掛けている事に衝撃を受けているのだ。 「あの、あれはモンスターでは」  人込みの中の一人が、弱々しく聞いてきた。  レイルはその質問で、彼等がなぜ集まっていたのを理解する。  そして、自分の連れが凶悪なモンスター見るような目線を向けられている事に不快感を覚えた。 「あんたら、イリエの顔を覚えていないのかい!」  怒濤のごとく怒るレイルに言われ、使用人達は顔を見合わせる。  どうやら覚えていないらしい。 「こ……っ!」 「あっ、ごめんなさい。ちょっといいですか?」  レイルの怒りが爆発する寸前、間の抜けた声が発せられた。  その声の持ち主は、肩辺りまでのウェーブがかかった卵色の長い金髪で、誰が見ても美人だと分かる程の絶世の美女である。  ふんわりとした声は風の囁(ささや)きのようで、魅惑的な碧の瞳は宝石のようであった。 「あ、イリエ。お帰りなさい。速かったのね。  どう? 薬草ちゃんと持ってきた?」 「ただいま、エル。大丈夫、ちゃんと持ってきたよ」  その二人は、和やかに笑みを交わしながら話を交わしている。  その光景を見て、使用人達はますます困惑していった。  そんな使用人達の困惑を読み取ったのか、エメラルドは極上の笑みを使用人達に向けて言う。 「みなさん、大丈夫ですよ。この子は私達の連れで、この雪狼はこの子の友達です。みなさんには何もしませんから。逆に、頼りがいがあるんですよ」  天使のような美しい笑顔のエメラルドを疑う人は、そうはいないだろう。  ここの使用人達も、例外ではなかった。  ほとんどの人達はエメラルドの説明を聞いてホッとため息をつか、武器代わりにしていた桑(くわ)やら木の棒などを下ろしたのだ。  そして、ちらほらと自分等の仕事に就いていった。
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