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「ただいま、セレノア」
イリエが傍に行くと、彼女は直ぐにイリエの背中に隠れるような場所に、さり気なく移動した。
暫くイリエから離れそうもない雰囲気だ。
「何しに来たんだ? あのワカサマは。邪魔しに来たのか?」
「ん~。一応手助けに来たんじゃないかしら? ほら、剣を持ってるし」
イリエと共に、若様から逃げてきたレイルとエメラルドは、口々に好きなように話す。
もちろん、二人の会話は近くにいるイリエ達にしか聞こえていない。
「お節介なヤツ。こっちの迷惑考えてほしいよ」
本当に迷惑そうに顔をしかめ、レイルはため息を吐いた。
「? どうして邪魔なの?手伝ってくれるなら、ありがたいんじゃないの?」
セレノアの頭を撫でていたイリエが、小首を傾げて言った。
その発言に、レイルは暗い笑みを浮かべる。
「フ、フ、フ。甘いよ、イリエ。もしワカサマが重傷を負って、最悪の場合死んでしまったらどうなると思う?」
「ん~、知り合いや家族が悲しむ?」
レイルの問いに、イリエは人差し指を顎(あご)に当てながら答えた。
「えぇ、それもあるわね。でもね、それより先に怒るわ。私達を、ご主人が」
「え? 何で? 私達、何もしてないのに?」
諭すような、やんわりとしたエメラルドの答えに、イリエは目を大きくして驚く。
森育ちの幻獣に育てられたイリエにとって、その答えは決して考えられないものだった。
「そう、何もしなくてもだ。
“モンスター退治の専門家のオマエラがついていながら!!” って言って攻めてくるんだよ。雇い主は」
レイルが、現在の雇い主の声色を真似して言う。
「え~? それって自分が悪くても?」
「そう、あっちに非があってもな。
……理解しなくてもいいから納得しなさい、イリエ」
眉間に額を寄せたレイルは、納得していない表情のイリエの肩に手を当てながら言った。
その肩に置かれた手は、本人の意識したより力が入っている。
レイルの言葉は、まるでイリエだけではなく己にも言い聞かせているようだ。
まだイリエは頭の上に“?”を浮かべ、エメラルドは困ったような悲しそうな表情をしている。
セレノアはというと、レイルとエメラルドから一定の距離を取りつつ、そ知らぬ顔でイリエの傍にいた。
そして白呀はというと、いつの間にかあの真っ白な巨体が消えていたのだ。
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