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同刻―――鬼兵隊の隠れ家になっている一軒家の前で一悶着が起きていた。
「何者だ?てめえ……幕府の手先か?」
「兄ちゃんよぉ……黙ってたら分からねえだろうが」
突然現れた背の高い男。黒い着物を頭から身に纏い、その顔を窺い知ることは出来ない。
ただ。僅かにゆるく弧を描いた口元だけが。
やけに白い肌―――そして紅でも塗っているかの如き赤い唇がぬらりと乏しい月光を受けて光る。
その奇妙ないでたちの男は、頑として場を譲らない男たちに呆れたように話しかけた。
「晋助から聞いてないの……?この俺がわざわざ来たっていうのに門前払いしちゃったら……あんたたち、斬られるじゃ済まないかもよ?」
若い男の声。少し高いその声が大胆にも鬼兵隊総督の名を呼び捨てにした。
途端にいきりたつ男たちの背後、“何事ですか”と誰何する声が響く。
一人は服装こそは平凡であるが、不気味な程に開ききった目が見る者に異様な雰囲気を与える男。鬼兵隊筆頭参謀、武市変平太。もう一人は金髪に露出度の高い服を着こなした女。腰につけたホルダーがいつでも戦闘態勢に移れることを示す……女ながらに鬼兵隊武闘派中の武闘派、来島また子。
「おや……貴方はもしかして……」
「あ、分かってくれた?久しぶり……かな?」
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