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十数年後―――小さな町の小さな駅に一人の青年が降り立った。
銀色に煌めく髪は光の粒を反射し、その彩りはとても人工の色とは思えない。
小さなスーツケースを片手にタクシーに乗り込み、行き先を告げる。
其所は古びた小さな医院。看護師も雇わず、ずっと医師が一人で切り盛りしているらしい。
タクシーを見送って振り返れば、静かな佇まい。
今日は五月五日。
流石に個人病院は休みだろうと踏んで、嘗て知ったる窓から侵入。
爽やかな初夏の風。
白いものが混じるようになった髪。
くるりと椅子ごと振り向く。重ねた年輪は肌にその重みを残すが、嫌みな程整ったその顔立ちは変わらない。
その漆黒の瞳も。
コイツの、この瞳が、好きだった。
熱っぽく見詰める瞳。
何よりも雄弁に想いを訴えるくせに、間近で見詰め返せば困ったように逸らされた。
“あのこと”があってから暫くして。
銀時は街を離れることになった。
理由は至極簡単。母親が引越しを望んだからだ。
それほど簡単に、銀時と土方の関係は断ち切られた。
銀時は……父方の親戚に預けられた。そして二、三年ごとにたらい回しとなった。
……土方は独身だから、銀時の保護者となることが出来ない。
義務教育期間を終えるまでの数年が辛かった。
……同じ屋根の下で身を護らなければならない相手が常にいたから。
中学を出てさえしまえば、後は奨学金とバイトで何とかなった。
否。
成績優秀な銀時を望んで受け入れてくれる場所が出来た。
……土方が何故あんなにも口煩かったのか、その頃になって漸く分かった。
……関係こそ途絶えたが、忘れたことなど無かった。……忘れられ無かった。
だから。
再び此処へ。
戻ってきた―――。
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