恋色惨劇

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「……?」 部屋に控えていたまた子は、微かな悲鳴を聞き取っていた。 「今のは……晋助様のお部屋の方角……!」 拳銃を片手に廊下を走るまた子の心臓は、何者かに掴まれたかのように痛む。 ……まさか……まさか! やけに長く感じる廊下を走り抜け、辿り着いた部屋。 庭に面したその部屋の有り様は。 赤く染まった障子。 身体一つ分開いたその障子から半身を覗かせているのは先刻の―――。 「さ、坂田銀時!?」 「う……あ…あ……助けて……」 また子の膝にずるずると這い上がってこようとする、その背に深く突き立てられた……刀。その刃がずるりと抜かれていく。崩れ落ちる男。溢れ零れる血が縁を汚していく。 「晋助様……どうして……」 眼の前の刀の持ち主に震える声で尋ねる。 冷たい瞳。 こんな坂田銀時を眼の前にして、この方がこんなに冷静でいられる筈が。 いや、それよりも。 「“これ”は、晋助様、が……?」 愚問だ。 高杉以外の誰がこんな真似を出来るだろう。 この部屋は“鬼兵隊総督”の自室。 そして、今にも息絶えそうなこの白髪の男は、かつては“白夜叉”と恐れられた男なのだ。 「どいていろ」 いつの間にか庭に落ち、それでも這いずり逃げようとする白髪の男の首が宙に舞った。 真っ赤な月がやけに禍々しくて……月明かりに照らされた白髪がやけに色褪せて見えたのを最後にまた子は気を失った。
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