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〈3〉
既に満身創痍な男へ、北風は先程より強い風を吹き付けた。風声が轟き、男を軽々と攫う。
強烈な風圧はそのまま男を巻き上げ、遥か遠方まで運んでしまった。
しまった、と北風は思わず呟く。また大木へぶつけようとしたのだが、計算違いで当たらなかったのだ。
男は町まで飛ばされていた。追い付いた北風と太陽が確認すると、男は死んでいた。
男はリュックを離していなかった。何も入っていないと思われたその中には、一つの小箱が入っていた。
ある女が寄ってきて、見る影はないどころか、人間と視認していいかも分からぬような男を見ると、ハッとしてリュックから箱を取り出した。
その小さな箱の中には、小さな宝石が埋め込まれた、小さな指輪が入っていた。
男の死骸へ頬擦りをして泣きじゃくる女を尻目に、北風は太陽に言った。
「あの男、可哀相にな。あんな目的があるなら、先に俺達に言っておけばよかったのに」
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