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子供時代より青年時代まで、酷い言葉の暴力を振るわれてきたS博士は、世の中の『言語』という悪魔に底知れぬ憎しみを煮やしている。
研究所で独り佇む彼の握る大袋には、頭脳を搾り出して生み出された毒薬が大量に入っていた。その毒薬に触れた者は、ものの数時間経たぬうちに言葉が話せなくなる。
博士は、満足だった。自分を虐げてきた人々が慌てふためく様を想像し、卑しい笑みを浮かべる。
しかし彼には悩みがあった。それは、この粉をどう蔓延させるかだ。町へばら撒こうにも、不都合な事に外は大雪である。
頭を捻っていた博士の後ろで、重い足音が鳴った。ドアは閉めた筈だが――と博士は振り返る。
そこには、赤い服に全身を包装し、立派な白髭を蓄え、巨大な袋を担いだ老人が立っていた。
「や、やい、貴様、どこのどいつだ。変な格好しやがって。ん、そういえば今日はクリスマスイブじゃないか。全く、サンタクロースの真似事か畜生め」
博士の言葉遣いは酷なものだったが、それは幼い頃から受けた罵声の作用である。
散々言われた老人は、思いがけず、穏やかな笑みを浮かべて答えた。
「ご名答。確かに儂はサンタクロースだ。しかし、不覚にも住所を間違えたらしい。此処には子供の気配が全くせん。では、失敬」
サンタと名乗った老人は、一つ会釈をして帰る素振りを見せた。しかし、博士は咄嗟に引き止める。
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