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「おい待て、本当にあんたサンタクロースか? 気の狂った爺さん……じゃなさそうだな、この吹雪を移動できる訳がない。おや、それにどこから入ってきやがった。ドアはしっかり鍵を閉めたんだが」
「吹雪など全く関係ない。儂はサンタだぞ。鍵など煙突があれば関係ない。儂はサンタだぞ。自然現象や人間の稚拙なセキュリティで間誤付くと思わないでくれたまえ」
老人は胸を張って言い放った。これでは博士も信じずにはいられない。
そもそも博士は、サンタを信じない観念の持ち主でもなかった。むしろ、自分を虐待してきた世間よりもそのような夢物語に縋りたい精神を秘めていたので、博士はその老人の存在をサンタと認識することに、然程抵抗がなかったのである。
しかも、棚から牡丹餅、サンタと言えばトナカイと空を駆け抜けることで有名である。空から毒薬を撒くには打って付けの人物だった。
博士は固唾を飲み、恐る恐る口を開いた。
「なあ、あんたがサンタというなら、一つ頼みごとがある。いや、プレゼントが欲しい訳ではない。ただ、町中に、この袋に入った粉をばら撒いて欲しいのだ」
「ふむ、それはお安い御用だ。失敬ついでに頼まれよう。時に、その粉というのは何なのだ?」
「こ、この粉はだな……」
どもりつつ、博士は何重にも平静を装って――
「そう、人々を幸せにする薬なのだ。この粉を降らせば、町はたちまち繁栄し、皆が喜び合い、非現実的なほど幸運が訪れるような空間が作られる。折角のクリスマスイブだが、生憎俺は、この天気じゃ動けん。どうか、この町の為、人々の笑顔の為、この薬を撒いてくれはしないだろうか」
と捲くし立てた。
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