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私は、とある木が「光合成万歳!」と叫んでいるのを聞いたことがある。
彼らは光を動力源としていることもあるので、喜ぶのは当然であり、私にはその姿が玩具を与えられた子供のように見え、何だか微笑ましく思えた。
さて、純粋な心を持つ諸君には悪いが、冒頭の体験は一切のフィクションである。木が喋る訳はない。
しかし、私がそう妄想したのは確かである。
更に私は、夜道に佇む木々へ想像に耽った。
彼らは外灯の光を、薄汚れた豚のごとく嫌悪しているように見えた。
「このような明かりを受けるぐらいなら、我が肉体を燃やす炎から光合成してやろう!」というような意気込みさえ、感じられる。
木が人工的な光を嫌う意味は不明だ。だが、ただ私にはそう思えたのだ。
単なるエゴイズムかも知れぬ。間違った偏見かも知れぬ。だが、そのような感覚を持った私という者が、ここにいるのだ。
この木を燃やしておけぬ道理はない。
……私はそうして、その木を周辺から焼き払ったのです。
まさか、その木で首吊りの準備をしている人が居るなんて、夢にも思いませんでした。
ああ、可哀想に。「どうしようか、もう、いっそのこと勢いよく吊ってしまおうか、いや、だが」なんて、その方は思い悩んで支度していたのではないでしょうか。
不憫です。もしや、以前私の頭が「木々は、人工物を嫌がっているのではないか」と感じたのは、この人の思想が醸し出されていた為かも知れません。
ああ、可哀想に。私はこれから、どのような妄想で、気を紛らわせればよいのでしょう。
ああそうだ、きっと、今は亡きあの人は、私に焼かれるのを待っていたのです……。
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