S博士とサンタクロース

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  「残念だが、それはできない。貴方の言うあのサンタクロースは、去年のクリスマス直後、老衰で亡くなってしまったのだから」  博士は愕然とした。隕石が頭頂部に落ちてきたように、視界が閃光で染められた。  サンタの言っている事が、全く脳へ溶け込んでこない。鼓膜を揺さぶるだけで、その死亡通告は、まるっきり言葉を成さなかった。  数秒固まっていた博士だったが、何かの糸が切れたように、突然泣き出した。大粒の雫を手で拭い、幼児みたく大声で泣く。  それは、サンタの死だけが原因なのでない。あの善き老人に、感謝の一つも言えなかった自分が、浅ましく、惨めで、どうしようもなく憎いのだ。  博士は、言葉は発せられるのに伝えられない事があるのを、初めて知った。  そのまま、一晩泣き明かした。  いつの間にか、サンタは居なくなっていた。
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