人間と白蛇

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   森へ春雨が降りる中、少年は一人佇んでいた。浮かない表情は、幼い顔立ちに似合ったものでない。右腕には、一本の縄をぶらさげていた。    彼は元来、体格の大きい方でもなし、消極的な態度を確固としている為、ここ数年苛めの対象となっていた。  親も友も未来も信じられないというのが、その末の考えである。若干十一歳が解いた人生の答えとしては、憂いを感じざるをえない。    少年は辺りを見回した。かれこれ数十分歩いてきたが、一向に手頃な木が見付からないようである。  少年がまた足を動かそうとした時、下方で何か音がした。驚き、少年はすかさず身を退く。足元に見えたのは、一匹の白蛇だった。  蛇は鎌首をもたげている。まるで紅葉のように赤々とした目で見詰められ、少年は固まってしまった。しかし、不思議と恐怖を思わない。  少年は、胸から湧く好奇心を覚えた。  いくばくの間見詰めあった後、白蛇はおもむろに口を開いた。 「汝、愛した方向へ向かえ。娯楽を愛した時娯楽へ、夢を愛した時夢へ、己を愛した時己へ奔走するがよい」  言い終えると、白蛇は跡形もなく消えていった。  少年はぼんやりとした意識の中、何かに後押しされたように、自らを愛し、自分の娯楽と夢を追う覚悟を決めた。    そして気付くと、縄を放り投げ、あの蛇のことを忘れてしまっていた。
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