仮面の仕方

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    舞台で仮面を付けたピエロが踊る。観客は腹を抱えて大きく笑う。  巻き起こる拍手喝采。お辞儀するピエロ。緩やかに下りていく舞台の幕。  客席と舞台が完全に区別されると、ピエロはそそくさと舞台裏へ逃げた。そして仕事仲間を避けるように楽屋へ走る。  楽屋へ着き、ピエロは周りに誰もいないのを確認すると仮面を外した。あらわになる素顔。  その表情は、見事なまでに固かった。雑草も根を張らぬ、朽ち果てた岩のごとき顔面。  滑稽な仮面に対し、彼は酷く仏頂面であった。  ピエロは額の汗を拭い溜息を吐いた。別に楽しくないわけではない。むしろ、笑いを取れたことに感激している程だ。  しかし、彼は自己嫌悪する。どれほど愉快だろうと笑顔になれない自分を、刺したくなる。  ピエロは虚ろな瞳で仮面を見詰めた。――すると、驚くことに仮面は真っ赤な唇を動かし始めた。 「そんな腐った目玉で見るな人間め。虫唾が走る」  突然声を上げた仮面に、ピエロは間抜けな悲鳴を出した。そして投げ捨てようとする。しかし手から離れない。 「何だお前は! 何で喋っている!」  ピエロは腕を振り回しながら叫ぶが、仮面は愉快そうに笑って返した。 「おうおう、そういう慌てた顔もできるじゃねえか! いつもムスっとしてっから、顔面が腐ってんのかと思ったぜ」  仮面の声は低く鋭く、ピエロの耳を突いた。一向に手から離れない様子に、ピエロはとうとう観念して椅子に腰掛ける。 「お、おまえ……」息を整えつつ、ピエロは言葉を紡いだ。「何なんだ、本当」
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