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カツ、カツ、カツ、カツ……。
石造りの床を落ち着きなく歩き回る男がいる。
男は墨を垂らしたような黒髪をオールバックにし、歳の頃は30代の半ばだろうか。
また、髪と同じ黒目は爛々とし、見る者に威圧感を与える。
そして立派にたくわえた顎髭に手をやり今日何回目になるかわからない事を言う。
「まだか?」
近くにあった椅子に座りながら男は近くに居た執事服を着た初老の男に聞く。
黒髪の男の名は『ドイル・シルフィース』
知らぬ者などいない三大貴族の一角、シルフィース家の現当主である。
執事服を着た男は律義にも「もうすぐでございます」と答える辺り執事としてよく出来ていると言えるだろう。
が、男はほとんど聞いていないようで、「まだか?」と、繰り返す。
部屋には白を基調とした家具が配置され男は気付いていないが気持ちを落ち着かせる音楽も流れている。
しかし男は落ち着くどころか、ますます落ち着きを無くし、執事に向かって今日何度目かの命令を下す。
「様子を見てこい」
執事はうんざりしつつ、だがそれを噫にも(おくびにも)出さず「畏まりました」と言って部屋を出ようとした時不意に、子供の、それも赤ん坊の泣き声が部屋に響いた。
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