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黒魔術師、またはネクロマンサーと呼ばれているが、正体が一切、羽織るマントの色と同じく闇に包まれた男である。
人種は多国籍にも無国籍にも見え、年は20代の青年にも見えれば60代の初老の紳士に見えることさえある。
噂では歴史上のサンジェルマン伯爵やクロウリーの子孫ともされ、何世紀も渡り歩いてきた不死者であるとまで言われている。
それほど謎で、それほど、強大だった。
「そうかい、なるほど。さっきからどうも冷凍野郎の様子がおかしかったのは、ご主人様の気配を感知してたからってわけか。俺はてっきり電池がきれそうだったのかと」
ふん、と鼻で笑うレオの挑発的な態度になど目もくれず、アイバーンがマントをの片方を大きく広げた。
「おいで、私の『エンケラドス』」
フリーザーは抱かれるようにアイバーンの腕の中で闇のマントに包み込まれた。
「『エンケラドス』ぅ?はっ!氷のダビデ像ごときにそんなシャレた名前があったとはね」
「『エンケラドス』…ギリシャ神話に出てくる巨人ですね。でも確かどちらかというと火に関したものだったはず。おそらく土星の衛星である『エンケラドス』にちなんでつけたんでしょうね。エンケラドスは一面が氷に覆われた真っ白い星なんです」
レオは流暢で饒舌なフィリップにきょとんとして振り返り、皮肉っぽく笑った。
「詳しいのねえ、眼鏡くん」
「昔は本ばかり読んでいましたから」
漏れる苦笑を隠すように、俯きつつ、眼鏡を押し上げる。
現実から、目を反らすように。書物の世界に没頭した。
そこにはそこだけの世界があった。
決まった世界があった。限られた世界があった。
自分を普通の少年にしてくれたアナザー・ワールド。
「本の虫だったんです」
「今はバーガーばかり食べていますが」
「うっ、うるさいです。レオ」
ニヤニヤと笑うレオにフィリップが頬を紅潮させていると、クククとアイバーンは笑い、穏やかにも鋭くも見える双眸でフィリップを見上げた。
「その通り。君は見る目があるようだ、若き悪魔祓いの子。『エンケラドス』は美しいだろう」
「…ええ、まがまがしいものなのに、清らかだ。なぜならその肉体は聖なるものでできているから」
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