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「その愚かな男に諦めがついたら、いつでも帰ってこい」
あぁ、貴方は何も変わってはいない。
帰れない事が分かっているのに、その言葉がどれだけ救いになるだろう。
「うっせ。この俺のフェロモンが分からねぇたぁ、お前ら人間じゃねー」
あぁ、この人にはもう諦めはついているんだけど。
今度こそ立ち止まる事なく、去っていく背中を見てフィリップは思った。
(あのアーチャー、かさばらないのかな。銃の方が目立たないし、よっぽど便利なのに)
「あのー―――――」
クリフとエンツォが完全に去った後、穴ぼこだらけの壁から、小太りの男が顔を覗かせている。
「あ?」
少々機嫌が悪いレオは男を睨みつける。
男はビクッと怯えながらも壁の影から震える左手に紙を掴み差し出す。
「…修理代」
紙を見ると、物凄い額が記載されていた。
男がこの状況を見て、独自に計算して弾きだしたのだろう。
「わっ、レオ。凄い額ですよ!」
フィリップに言われ紙をのぞき込むとこめかみを押さえた。
「マジかよ。…あれだ、ナンパした男が実はマフィアの愛人で、金と思いでをふんだくられたぐらいの衝撃だな」
「過去にどんな恋愛をしているんですか。って、冗談言ってる場合じゃないですって」
「わぁってるって、仕方ねぇ、一度協会に戻るか」
協会がある方を無意識に振り返ると、一睡もしていない疲れた目に僅かな光が射す。
そちらに視線を向けた事に後悔しながら、レオは渋面を作ったのだった。
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