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るひな(以降R)
フィリップは自分の分のホットドックの包み紙をくしゃりと丸め、おとなしくスタバのコーヒーをすすり、
「…っ!」
予想外のことについ息さえも飲み込んだ。
「何だよ!水しか出ねぇじゃねぇか」
シャワーのコックをひねって数十秒後。
安宿らしい予想を裏切らずいっこうにお湯の出てこないシャワーに、レオは思わずシャワーヘッドを浴室の壁に投げつけた。「おっと!」
反動で跳ね返ったシャワーヘッドがレオの脇腹をえぐりそうになり、反射的に腰を反らす。
受け止めてくれる相手を得られなかったシャワーヘッドは、そのまま浴槽の方に転がり落ちていく。
すると鈍い音をたてて数秒は静止したものの、今度はゴボゴボとむせながら噴射して蛇行してたうちまわり始めた。
不規則に噴出される水のまわりはわずかに湯気で白んでいる。
「くそっ」
今頃になってと舌打ちしながらもシャワーヘッドを拾うために腰を屈めた。
お湯が手にはね飛ぶ。
「熱っ!…?あれ…」
思わず手を引っ込めたものの、視覚を裏切るお湯の冷たさに奇妙な感覚を覚えた。
なにげなく手を見て驚く。
白い斑点のようなものができていた。
それは一瞬にして凍ったかのような薄氷だった。
「レオ、大変です!」
慌てた様子のフィリップが突然、浴室のドアを開ける。
ノックさえしなかったくせに、レオの裸を目にするなり、すみません!と焦って目線を反らす。
しかし視線は泳がせながらも、しっかりとした口調で言った。
「この現象『フリーザー』だ」
コーヒーのカップを開け、レオに差し出す。
冷たそうなコーヒーは、熱を失ったどころか、表面に白い氷の膜まで生成しつつある。
「どうやら、あいつが近くにいるようです」
そう話すフィリップの吐く息も、一瞬だけ白く曇った。
空気の温度さえ下げられつつあるらしい。
レオは単なる寒気か、はたまた悪寒からか、身震いをした。
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