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R
ピシッピシッと小さな破裂音のようなものをたてながら、冷気が扉の縁から内側の壁沿いに、徐々に氷の膜を作っていく。
気体を瞬時に固形化しているのだ。
「シャワー上がりには拷問だ」
どうせ浴びちゃいねぇがな、とレオは不敵に笑い、扉の向こうを銃口と共に真っ直ぐに見据える。
冷気を伴い、それが姿を現した。
一糸纏わぬ、氷の彫像のような男の姿。
青白い氷の肉体。
だがクリスタルのように透明ではない。
「そそる格好だなぁ、『フリーザー』。 俺と一緒にあっつい風呂にでも浸かろうか?」
挑発ぎみに笑んで、答えない相手に一発。
食らわせたところで、レオは振り向かないまま後ろで右往左往しているであろう青年に語りかけた。
「ところでフィリップ君」
「は、はい!?何ですか!」
「氷に吸い込まれた銀って水銀になるのかしら」
「えっ!えっ、そんなの知りませんよぉ!」
化学は専門外ですと泣き言をいうフィリップに、レオはヘタレエクソシストめ、とボソリと悪態をついた。
「聞こえてますから!」
「そりゃあ悪かった。フィリップ、至急次の手を考えろ!」
「そ、そんなこと言ったって…っ」
後ろで余計焦る様子が伝わってくるが、レオはフリーザーを見据えて挑発の姿勢をとるしかない。
銀の弾が利かない。
隙は、見せられない。
すっとフリーザーの片足が動き、室内に踏み込む。
氷の軌跡が続く。
フリーザーもまた、レオを見据えたままだったが、僅かに唇を動かし、ポロリと何かを吐き出した。
打ち込んだ銀の弾丸が、原形をとどめた姿のまま床に転がる。
「フィリップ君、朗報だ。水銀の毒は免れた」
「そんなこと言ってる場合じゃ…わゎっ!」
後ろで何か騒動が起きているのに呆れて、仕方なくレオは溜め息混じりに振り返った。
「あぁ…手がかじかむ」
「何をしてんの、お前は」
ぶるぶると惨めに震えるフィリップの手を何気なく見下ろす。
レオの空けたジンの瓶に何か仕込んでいる。
「火炎瓶を、作ってます。レオの…ジッポのオイルで」
なるほど、これならライターなどで対抗するより火力に期待ができる。
レオは親指を立てて微笑んだ。
「でかした、青年!けど後でしばく」
そして一縷の情けもなく、親指を急降下させた。
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