三十六章:藤堂平助と苦手克服の話

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「もっと膝を入れて!」 「せいやーっ!!」 朝の道場に二つの声が響いていた。 「腰を沈めて!」 ひとつは藤堂のもの。 「えいやーっ!!」 もうひとつは華楠のもの。 「そうそうその調子だよ華楠ちゃん!」 藤堂が手を叩く。 「おりゃーっ!!」 しかし、華楠が振り回しているのは竹刀ではない。 ブォン!! ビュン!! 「おーっす」 原田が腹をかきながら道場の戸を開けた。 「とりゃーっ!!」 ブンッ!! 「ぎゃあああああああ!!!?」 原田の目の前2センチの所で“それ”は止まった。 「俺を殺す気か華楠んんんんん!!!」 「はぁ、ふぅ、あ、ども、原田さん」 「なんつーもん振り回してんだお前は!!!すぐやめろ即刻やめろ!!!」 「へ」 華楠が無人の道場で振り回していたのは、長さ3メートルの物干し竿の先に包丁をくくりつけたもの。 それを槍のように振り回していたのだ。 「ひどいなー左之さん。華楠ちゃんは苦手を克服するために頑張ってるってのに」 竹刀を担いだ藤堂がぶーぶー文句を言う。 「はぁ……?」 華楠は胸を張って満面の笑みで言う。 「これでネズミの野郎を串刺しにしてやろうと思ってるんです!」 「ネズミかよ」 「この物干し竿なら近寄らずに串刺しにできるでしょ?」 華楠がビュンビュンと突きを繰り出す。 「あぶ、あぶ、危ねえよばか!!」 「あ、すみませーん」 原田に怒られ、華楠は全く悪びれずに適当に謝る。
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