一章 襲来の夢

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  (うっ……、な…ん? 灰色? なんだ、これ……) 海人が目を開けると、そこには灰色があった。 海人は寝起きの時のように、意識がはっきりとせず、何が起こったか分からない。 ……いや、実際寝起きなのだ。 海人は確かに眠っていた。 学校から帰り、帰り道にあるスーパーで買ってきた青魚を、愛里と一緒に食べ、また愛里と談笑もし、彼は入浴という一人の時間を過ごし、歯磨きや明日の準備を済ませ、そして眠りについた。 ……眠りについてからどれだけ経ったのか。 それは分からないが、少なくとも、ベッドから起きて、外に出歩いた覚えはない。 なのに、海人は何故か、灰色の空の下で仰向けになっていた。 ただただそこに、仰向けになっていた。 ……やっと意識がはっきりとしてきた海人は、まず起き上がり、辺りを確認しようとした。 …しかし、そうはいかなかった。 海人は躯に力が入らないことを、今ようやっと理解した。 それもまた、寝起きの時のような、力の入らない、意識がそこに集中しないような、そんな感覚であることを、海人は感じた。 それを理解した瞬間、突然無為な虚脱感に襲われる海人。 どうでもいい、このままでいたいという感情に襲われる。 実際躯が動かない海人は、これに対抗しうる手段を持っていない。 (まあ、いい…か……) だからこそ海人は、ただ灰色をぼーっと眺めていることにした。 …まあ、目線も動かないので、そうする以外に、海人ができる事はないのだが。 …しかし、そうやってただ微睡みのような感情に浸っているわけにはいかなくなった。 ……何故か。 それは、海人が聞いたからだ。 獰猛な、凶悪な唸り声を。 その耳で、しかと。
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