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…不意に、青年を中心とした地面が、鋭く響鳴する。
…その数瞬後、彼はまるで弾かれるように、足回りから激しい閃光を生み出し、刹那に空高く跳躍した。
まるで弾丸のように空を切って飛ぶ青年。
その飛躍は、まさしく青年の心境の具現であるのだとは、彼自身気付いてはいない。
「待っていた……。貴方を、ずっと」
血深泥の戦場にも響き渡る、澄んだ女性の声が、“愛する”青年に向けられる。
「……何故だ。俺は、たとえお前が、忌み嫌われる血を引いていようと…………
「駄目。それじゃ、駄目」
青年の言葉を遮って、女性、いや少女は否定する。
…そして、悲しみのみしか感じられない言葉を、彼女は紡ぎ出していく。
「貴方も私を、いえ、私達を忌み嫌わなきゃ、駄目なのよ。そうしなきゃ、貴方は私を、殺せないだろうから……」
「…………っ!」
眼を閉じて、まるで悲壮に浸るかのようにする少女。
それが、何よりも本当に悲しい事だと、青年は思う。
「私が、呪われた血を持ち、冥軍を統べる『裁断者』であり、そして、“悪夢の具現”である以上、私は貴方と闘わなくてはならない。……なら、せめて本気で私に立ち向かってきて。私の最後の願いとして。聞き届けて…………」
哀願するように、その碧眼を青年に向ける。
…青年は一瞬だけ浚巡し、そして、悔しさに貌をしかめながら、彼は剣を構えた。
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