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「お前、もう少し早く起きる気はないのかよ」
兄は立ち上がると、化粧台からドライヤーと私の化粧バックを持ってきた。
「じっとしてろよ」
馴れた手つきで私の後ろで膝立ちをしながら丁寧にドライヤーをかけてくれる。
私はハニートーストにかじりつきながら、兄に任せた。最初は荒かった髪の扱いも今では私よりも優しく扱ってくれる。髪を抄いてくれる手に私は自然と目を細めてしまう。兄に髪を撫でられるのは、誰に触られるよりも気持ちよくて、嬉しい。
「こら、さっさと食べろ」
髪を撫でられる気持ちよさに浸っていると頭を叩かれた。手が止まってたみたい。サラダににーにぃ特製ドレッシングをかけて、フォークを突き刺す。
「おし、終わり。次行くぞ」
私は体を顔ごと兄の方に向ける。兄は化粧バックを開けるといくつか道具を取り出す。
初めて化粧した時は、今なら何考えてるだと膝詰めで昔の自分を説教したくなる程酷い化粧をしてしまった。塗りたくった濃い化粧にかけすぎた香水。それを兄に見せたら、泣いてしまった。
兄が泣いた姿を見たのは後にも先にもそれきりで私はその化粧が失敗だったと直ぐに悟った。
それからは化粧をしてなかったのだが、兄から一緒に化粧のしかたを覚えようと誘われ、一時は封印していた化粧バックに手を伸ばした。
一緒に化粧の勉強を始めてから私よりも兄の方が上手くなってしまい、朝の時間がないときは何時も兄がやる事に自然となった。
私の事なのに任せっきりなのは悪いと思ったけど、寝起きが悪いのとドライヤーも化粧も兄の方が早くて上手なので結局今の今までこの習慣は続いている。
「ほい、終了っと」
高校生らしい軽いナチュラルメイクがものの数秒で仕上がる。
「蓮にぃ、ありがと。それと、いつもごめんね」
「それは言わない約束だろ」
頭をぽんぽんと叩くと蓮にぃは私の食べ終わった食器を持って台所に向かった。
「今日は帰りどうなんだ?」
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