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でも。話を聞くだけなら。それから判断しても遅くないはず。
昨日までは彼の意見に耳を傾けるつもりなんて全くなかったのに、一通のメールを読んだだけでぐらつき、翻そうとしている私。
私ってやつは。
どこまでも甘い。
自嘲気味に小さく笑った。
私はひとつ頷いてから心を決め、彼に「昼間であれば会います」という返信メールを送った。
彼からはすぐに「分かりました」という返事が来たが、最後にこう添えられていた。
「当日は俺が以前付き合っていた女性も来ます。あなたに直接謝罪したいそうです」
不思議だったのは、彼が待ち合わせ場所にカフェの席まで細かく指定してきたということだった。
けれど問い質すほどの不信感は抱かなかった。
私が窓際のソファ席に座ってから30分近く、待ち合わせ時刻からは10分が過ぎようとしていた。テーブルに置かれたアイスティは溶け出した氷のせいで薄くなり始めていた。
私がストローで意味もなくかき混ぜていると、こちらをジッと観察する視線を感じてパッと顔を上げた。
その女性の視線にはなぜか私に対する嫌悪感、あるいは敵意のようなものが込められている気がした。
でもそれは単なる気のせいだったかもしれない。
私が彼女の顔をもう一度確認すると、柔らかな笑顔を浮かべていたからだ。
「すみません。遅れました」
と丁寧に頭を下げる彼女は、嫌がらせ目的であんなメッセージを送るような女性には見えなかった。
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