251人が本棚に入れています
本棚に追加
当日、彼と会うことになっているライブ会場は大阪の心斎橋パルコにあるクラブクアトロ。
その日はマルーン5というアーティストがライブをすることになっていた。
私はマルーン5が大好きだった。
元々マーヴィン・ゲイやスティーヴィー・ワンダーなど、70年代のR&Bを好んで聴いていた私にとって、現代のロックポップスに70年代のR&Bを絶妙なセンスで取り込んだマルーン5はまさにツボだった。
そんな大好きなアーティストが今私の目の前で演奏している。
それなのに私はライブを楽しむ余裕がなかった。
私の意識の半分以上は演奏中のアーティストではなく、このライブ会場のどこかにいる彼に向けられていたからだ。
私は彼を探していた。
分かるはずなんてないのに。
ノリノリで体を揺らしてる坊主頭のあの人なのかな。
あるいはそこの柱にもたれかかっているハンチング帽の人かな。
私があれこれ想像を巡らしているうちにライブは終演時間に近付き、それとともに心臓の鼓動が早くなってくるのが分かった。
服の上からでも鼓動が伝わりそうなくらい。
手からもじんわりと汗がにじみ出てきた。
いつまでもアンコールが終わらなければいいのに。
そんなことを思ってしまう私がいた。
会いたいけど会いたくない。
矛盾しているけど今の感情を言葉にするならそんな感じ。
普段穿かないスカートをこの日にかぎって穿いてきた私。
何を期待しているんだろう。
自嘲気味に小さく笑った。
最初のコメントを投稿しよう!