【序】

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「上場番号三三七〇番の目玉商品はこれ! 十四歳二月十六日生まれ。皆さまご存知の『体から宝石が出る少女』! ずばり、四十億円からです」  暗闇の中で唯一スポットライトを全身に浴びる、燕尾服を着込んだ男が、その場に不釣り合いな活気ある声をマイクを通して客席へと届ける。  それに呼応するかのように、スポットライトが隣のステージへと移されてソレの姿を露わにした。  スポットの先には檻に入れられて手足を鎖で拘束された少女。  目隠しをされていても、その唇がわなないていることから、心から恐怖しているのが見て取れる。  しかしそんな少女の姿を見た途端に、ステージの周りにひしめき合っていた者達がざわめき、中には歓声を上げるものさえいた。  心踊らせる者はいても、心を痛める者はここに居ないのだ。  燕尾服の男は、客の反応を見て満足そうに口許を緩めると、咳払いをひとつ。 「では、参ります。四十億円から――」 「はい!」  男が言い終わらないうちに、客席の男が勢いよく番号札を上げた。 「……はい、ありがとうございます。中央席の方ですね? では、四十億壱千万、四十億壱千万ー」 「四十億五千万!」 「はい、なんと一気に五千万頂きました。右側席の方です。よーくご覧下さい。この大変貴重な少女。もう一声どうですか! 四十億六千万ー、四十億六千万ー」 「はい!」  さらに番号札が上がり司会の男は目を輝かせた。 「ありがとうございます! 右奥の方です……。さぁ、お考えでしょうかー?」  そう言いながら男は頃合いだろう、と呟き隣のステージに登り檻の横へと移動する。 「次がラストコールになります。さて、その前にこの見た目も美しい少女を是非ご覧下さい」  コツリ、コツリと大袈裟に足音を立てて歩くと一気に場内が静まり返った。  檻の中で少女はそれに怯えて小刻みに震える。  そんな少女の鎖を乱暴に手繰り寄せ、男は目隠しに手をかけた。
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