抗えない闇

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暖かなお日様の光の中に、少しの冷たい風が入り交じり始めた なんとも不思議な今日この頃 この幕末の時代の九月は長月と呼ばれ こうして歩けば其処かしこに黄色やオレンジ、ピンクの菊が町全体を彩っていた 壬生浪志組はと言うと 先月に没発した8月18日の政変時の活躍により、会津のお偉いさんから正式に新撰組と言う名を賜り それに付随して、刃向かう者には容赦無く、斬り捨てても良しとする 『斬り捨て御免』という、何とも恐ろしい許可も降りた 彼等は毎日の様に町を闊歩し、その時の政変での残党狩りに躍起になっている そして私、色葉はと言いますと…… 相変わらず沖田付きは続行中で 無論、毎日の様にこうして奴に撒かれては独り、トボトボ京の町を彷徨いている次第だ けど、そんな日常の中でただ一つだけ変わった事がある それは沖田と連れ添い屯所を出る事に不満を抱かなくなった事 こうして毎度の如く撒かれても腹が立たなくなった事 この任務が無いと、私は外に出る事すら叶わない たまに買い出しに出れたとしても必ず付き添いが居るわけで 一人で、というのはまず無い けど、この沖田付きだけは自由に、しかも一人で町をうろつけるのだ そう、私はあの雨の日の、栄太に会ったあの日から 毎日の様にこうして彼の姿を探していた 「まだ……帰って来て無いのかな?」 独り呟いて空を見上げる 少し前まではこの幕末の空の下、 遠い遠い未来を想って目を馳せるのはこの世界に私、ただ独りだけだと思っていた でも、心にポッカリと空いた寂しさと人恋しさ そして、何とも云えぬ周りとの疎外感を感じていたのは私だけじゃ無かったんだとあの時知る事ができた 同じ境遇で、同じ心境 それをただ独り、同情ではなく本当に理解し合える人が居るという安心感は、今までに無い心境の変化と、行動力を私へともたらした 気付けば最近では、いつも彼の事を考えていて 栄太とまた会えるその日を心待ちにしている自分がいたんだ
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