マフィアからの手紙

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扉をくぐる。 くぐった。 何度も言うが瓦屋根の木造モルタル二階建て。 ありふれた日本家屋の扉を、だ。 「うっそぉ…」 俺の予想した内装の180°逆。 何部屋もあるだろう家の壁をぶち抜き無理矢理1部屋に変えた家。 柱も最低限の物しか無い。 家具もおよそ日本では見たことのない様な、お洒落で高級感溢れる品物ばかりだ。 と、マフィアのアジトへ単身突入した事をすっかり忘れた俺が、キョロちゃんよろしく(響きだけだ)周りをキョロキョロと見回していると、俺を先導していた女性が甘い匂いのする豊かな栗色の髪を揺らし、こちらに振り向いた。 「貴方は立花新人君ね。私の名前はルーシー・キャメロット。よろしくね」 そう言って手を前にだす。 「?」 文字通り頭にクエスチョンマークだ。 「もぉ、握手よ、握手。自己紹介」 「あぁ…」 俺は手を差し出した。 瞬間。 一瞬で視界からルーシーさんが消えた。 そのまま頭がそれを理解する前に腕を引かれ、体が中に浮くのが分かった。 一本背負いという奴だ。 いや、まぁ柔道なんてした事ないから分からないが、多分一本背負いだ。 背中から見事に床に落とされ、一瞬息が止まる。 「どべぇ!」 突然投げられたら人間どんな声が出るか分からない、そう思った瞬間だった。 「甘いわね。練乳くらい甘いわよ、新人君。いついかなる時も油断するな。それがマフィアよ」 ルーシーさんはそう言った後、痛がる俺の手を取り、優しく立ち上がらせてくれた。 「なんてね。大丈夫?これ、通過儀礼なの」 「大丈夫じゃないっス…」
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