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だが、その8時間で、俺とクレアさんは、今から地獄へ向かう、と言う仲間意識から、大分仲良くなっていた。
「クレアさんは何でマフィアになろうと思ったんですか?」
俺は訊いた。
ただ何となく。
会話が途切れたので、適当に話題を探した結果だ。
「……笑わないでくれマス?」
おぉ。
軽く朱に染まった頬と、涙目の上目遣い。
ルーシーさんの美しいと、凜香達の可愛い、の間。
これを表現する程のボキャブラリーを、残念ながら俺は持ち合わせていなかった。
「笑いませんよ。勿論」
「私、憧れてたんデス」
クレアさんは軽く息を吸って、吐いた。
「マフィアって、結構怖いイメージがあるじゃないデスカ」
「そうっすねぇ」
俺は初っぱなで銃ぶっ放されたし。
「でも、ソレは客観的なイメージで、他のファミリーは分からないケド、私達のファミリーは余程の事が無い限り、一般人には優しいんデスヨ」
それは、分かる。
今のヤクザや暴力団は違うが、昔の極道ってのは、一般人には手を出さなかったらしい。
『仁義』ってもんを大事にしていて、それを守らない奴にだけ、怖い人になっていたらしい。
「勿論、私や、地元の人には凄く優しいんデス。私達も両親がケネディ・ファミリーだったんで、特に優しかったんデスケド…。その…、私、一度だけ誘拐された事があるんです。ファミリーの幹部の娘だからって。8歳の頃」
「え…」
「いや、変な事とかはされなかったデスヨ?」
クレアさんは何を勘違いしたか、慌てて両手を振った。
「でも、怖かったデス…。本当ニ…。もう、死んじゃうッテ思ったんデスケド…。その時に、助けてくれたんデス。ファミリーの人達ガ。それはもう、凄かったデス。犯人は大きい、それこそ私達のファミリーの何倍も大きなファミリーの下っ端だったんデスケド。その人達は、独断で勝手に私を誘拐したクセに、自分達に手を出したら、自分達のファミリーが黙って無いって、言い出したんデス」
それは…。
かなり非道いな。
最低じゃないか。
そいつら。
「そしたら、助けてくれた人の1人ガ…、”好きにしろ。僕達は仲間に手を出す奴は許さない。それが例えアメリカ政府だろうが、バチカン政府だろうが関係無い“ッテ。それを見て、凄く格好良かったんデス。ありきたりかもしれないケド、私はそんな人になりたいッテ思ったんデス」
えへへ、と、クレアさんは可愛らしくはにかんだ。
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