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「も、もう…、勘弁…」
…………。
「お母さん…、助けて…」
…………。
「天皇陛下!バンザーイ!」
いや、いくらなんでもそれは待て。
戦時中か。
「そ、壮絶…、ですね…」
「だろ?これでもマシな方だぜ。俺ん時なんか、まだヤバかったもんな。あまりの辛さに集団脱走を企てた奴がいた位だ」
集団脱走って。
どこの大脱走だよ。
「でも、ワタシは後方支援員コースなんで、楽デス~」
「バッカ」
そんな、他人事で楽しそうなクレアさんを、チェリオさんは軽く小突いた。
「後方支援員コースは確かに楽だよ。教官が違ってたらの話だけどな」
「ハイ?」
クレアさんはニコニコな笑顔のまま、固まった。
理由は簡単だ。
チェリオさんの横。
丁度、クレアさんの斜め後ろ。
だが、確実にクレアさんの視界に入った位置に、驚くべき人が現れたからだ。
「や、クレア」
首からキリキリと音が聞こえそうな位、クレアさんはゆっくりと振り向いた。
「お、お姉ちゃん…」
「ルーシーさん!」
何でここに。
「何って、可愛い妹と、可愛い義弟が研修だって言うから、私が教官を買って出たのよ」
そんな笑顔で言われても。
つーか義弟って。
「ヤダー!」
よっぽどイヤなのか。
クレアさんは脱兎の勢いで走り出した。
「チェリオ!」
ルーシーさんは叫ぶ。
その瞬間。
俺の目の前にいた筈のチェリオさんが。
消えた。
一瞬で。
「だー!面倒掛けさせんなよクレア!」
消えたと認識した時には、チェリオさんはクレアさんを羽交い締めにしていた。
「ヤダー!ヤダー!」
「クレア、あんまり迷惑掛けると、アレよ」
アレとは何なのか。
そんなに怖いのか。
あれだけ暴れていたクレアさんが、ピタッと止まった。
まるで、突然電池でも切れた様な。
そんな止まり方だった。
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