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絵物語の貴公子に恋する姫宮とて、もう少し熱心だろう。
だが、もともとあの都のはずれのあばら屋で、ただ朽ちていく身を見つめていた桜には、なにもかもが空ぞらしく見えた。
桜の視線が、ふと流れた。五弦の琵琶が目に留まる。
今宵弾かされたのは和琴だった。けれど桜は琵琶が好きで、よく弾いていた。
それを手元に寄せながら、思いだし笑いをする。
(あの少将の下手さ加減といったら……)
宴で、桜の和琴に合わせた五位の少将の笛はお粗末もいいところだった。
この館に引き取られてからめきめき腕を上げた桜の音色は、今や養父も舌を巻くほどだった。
(養父上が一番お上手なのに)
よほど親しい人か身内にした聞かせないが、生まれ変わるような心地すらするほど、養父の奏楽の腕は素晴らしかった。
その彼に褒めて貰うのが嬉しくて、桜は必死になって練習した。
ばちを取り、音を合わせる。
ぽつぽつとつま弾く音色は、やがて柔らかな奔流になる。
ゆっくりと心が解けていくような気がして、桜は弾きながらいつか笑みすら浮かべていた。
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