【第一章】夢に向かうまで。

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とにかく、今すぐ絵で食べていけるような実力は無い。しかしながら少しは何かクリエイトする職業に携わっていたい。そんな思いから家具の製作工場に就職し、設計業務をすることになった。会社というところは新入社員に研修期間があってしかるべきだと思うが、そこはロクな教育も施されなかったのでCADを見よう見まねで覚えて、休日は図書館に行って独学し、なんとか業務をこなしていた。恐ろしく忙しい職場で、工場内作業などもあり、油まみれになりながら10~14時間の労働に精を出した。残業手当は20時間以上は無し。週休完全1日制。初めてもらった給料は11万3000円であった。総務の係長に「君はこれでも工員より2000円高いんだよ」と言われた。世間の常識をなにも知らない18歳の僕は「こういうものなのか」と思いながら働いた。1年働いて昇給の日が来た。基本給で3000円のアップだった。例年通りだと言う。「10年働いてやっと3万あがるのか」とぼんやり考えていた。時給に換算したら地方自治体が定める最低労働賃金よりも大きく下回っていると気づいたのは数年経ってからだった。我ながら阿呆だと思う。 しかし、地方の工場の状況は、当時得てしてそういうものだったと言う。バブル崩壊後の不景気真っ盛りでどこも経営が苦しかったのだ。 ちょっと信じられないが、その会社で7年半居た。 辞める少し前、脳梗塞で寝たきりになり、僕が20歳のころから扶養していた父が死んだ。 借金と売るに売れない小さな一軒屋が残った。 絵はずっと描いていた。ある日無償に露出したくなり、社内報などで4コマ漫画を連載したり、カットを描いたりしていた。もちろん無償で。自分の描いた絵を人に見せたくなった。ちょうどそのころ、インターネットに出会った。最初はなにがなにやら訳がわからず、次第にヤフーを使って掲示板みたり、メールを使って感動したり、世界中のサイトを見たり、やがてはあんな単語やこんな単語であんなサイトやこんなサイトを見るようになって、案の定罠に嵌ってブラウザを壊されたりしていた。多くの野郎どもがそうであったように、僕も経験から自己防衛能力を高めて行ったように思う。何事も経験だ。うん。
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