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「えぇ……」
その言葉にエリルガは同意を示す。
伏せた顔の横を、肩口までの銀髪がさらりとこぼれ、朝日を受けて、光の滝を作り出した。
一拍の後に上げられたエリルガの顔には、苦笑が浮かぶ。
「しかし任務を入れる殿下も悪いのですよ? 自覚しておりますか?」
1つの任務が終わる前に次の任務を入れる。そのタイミングが絶妙でギリギリなため、彼らは帝都に帰還する暇さえないのだ。
そのことを、今目の前で笑う御仁にもわかっておいて欲しい、そんな思いがエリルガにはあった。
「そのようなことを続けては彼らが体調を崩してしまいます」
「フッ……」
エリルガの言葉を青年が鼻で笑った。
いや、笑ったというより、短い呼気が口から漏れ出しただけという解釈もしようとおもえばできる。
何にせよ、エリルガの思いを読み取り、それに答えるように微笑みを返したのだ。
「だが、相変わらずエリルガは奴らに甘いな。それに……」
青年は一度だけ口を閉ざす。それは、青年が、呼吸、身体、心全てを落ち着かせるためのものだったのかもしれない。
「あいつらはあれぐらいでくたばるような軟弱ではない」
その後に、体の奥底、彼の本質の全てが凝縮されたような不適な笑みを貼付けて、こう言った。
この世に類を見ない不敵さを持つ笑みはこの御人だからこそだ。
「楽しみだな……」
青年はここにいない者達を想うように目を細め、そしてもう一度全てを無に還すように、その瞳を、瞼で覆うのだった。
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