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「終わったか」
アナンが張り詰めていた息を吐いた。
さほど緊張はしていないが、暗い足元の見えない森の中での戦闘は、神経を削る。
「あぁ。時間はかからなかったが、追うのに多少手間取ったな」
それだけでも十分な注意が必要であるのに、獣はホームラウンドであるここを、縦横無尽に逃げ回る。
一言で言うと、とてつもなく面倒。
「任務完了っと」
アナンが携帯の端末を取り出し、ボタン操作するのが目の端に映る。
ライフの目は端末の画面から発される淡い光りを捉え、自分達を取り囲む森に再度目を向けられる。
ライフは持っていた剣を消し、片手で、被っていたフードをとった。すると、限りなく白に近い髪と金色の瞳があらわになる。
整った顔立ちは薄暗い森の中でもはっきりとその存在を主張していた。
しかし、その顔には一種の疲労感のようなものが浮かび、年齢に似合わない大人びた雰囲気を醸(カモ)し出す。
ライフはその金色に光る目で先程倒した獣を一瞥(イチベツ)し、ふっと吐息をこぼした。
「ありえない」
半ば愚痴(グチ)のようにこぼされたつぶやきは、自分達にこのような任務を課した者への小さな報復(ホウフク)だった。
風のない森で、少年の動きにあわせて外套(ガイトウ)が揺れる。
それさえもこの森では大きな動きのように思えた。
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