第一章 アルトナーグ帝国

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  森の中、任務を終えたライフ達は、端末で呼んだ死体処理班の到着を待つために、そこに留まっていた。 その名の通り、死体処理ばかりを扱うエキスパート達だ。 相変わらず端末を操作しつづけるアナンとは裏腹に、なにもすることが無いライフは、ベルト付近に装着された6つの球体のうちの1つを、おもむろに手にとると、指の中で弄(モテアソ)びはじめる。 ライフが意識して力を込めると、その球体はぼんやりと発光すし、その淡く透明な光に、ライフは目を細めた。 この世界には『フェアル』と呼ばれる力がある。 『フェアル』とは、人の潜在的な能力である身体エネルギーのことを指し、身体強化、攻撃、防御に使うことが出来るが、それは必ずしも万能というわけではない。 まずここで示しておきたいのは、『フェアル』を使うということ、この世界での術を発動するという行為は、魔法を使うということと同義ではない、ということだ。 〔フェアルは自然の恩恵を受けられない〕 これは大陸全土の者達が知るところであり、絶対の理(コトワリ)であるから。 フェアルを扱うのは人だ。人の踏み込めない自然的なエネルギーを使う術を、人は知らなかった。 つまりは、自然の恩恵からなる、火、水、風、土、木、雷。そう言った力は、奮(フル)うことができないということだ。 『フェアル』という力自体をあつかうことさえ、〈磁気結晶-ジキケッショウ-〉通称〈コア〉と呼ばれるものを媒介(バイカイ)にしなくてはならない。 肉体的な強化には必要無いが、放出系、つまりは術を表に具現化(あらわす)するものには、絶対的に必要なものだ。 「……」 コアを手の中で転がすライフは小さく口を動す。しかし、出てくるものは音にはならず、わずかな呼吸音ばかりだ。 「なんか言ったか?」 「いや、なんでもない」 ライフはもう一度コアにむけていた目を泳がせ、足元の地面を見やる。どこか掴(ツカ)み所のない、思案するような瞳。 だがそれが、次の瞬間、大きく見開かれた。 「何か来る……!」 ライフとアナンの後方、深い森の中から、濃厚な殺気が膨れ上がり、辺りを飲み込まんばかりに大気中に浸透(シントウ)した。
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