それは突然、薮から棒に

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大人ってのはね、いろんなことがあるもんです。 君たちみたいに、やりたくないからやらな~い、なんて言えたら収入がなくなります。 いろんなところに気を使うし、時には心を鬼にして応じなければならない時もある。 大変なんです。 お酒くらいは飲ませてよ。 まっすぐ歩けないほど飲んだわけじゃないし。ね? そうこうしてるうちに、自宅近くのバス停に到着した。 慣れた手つきで定期を運転手の目の前に突き出し、落ちる勢いでステップを降りる。 さすがにここまで帰ってくると、辺りは静まりかえっている。 住宅街のアスファルトを、曖昧な円形に街灯がぼんやりと照らしていて、その街灯の電球に向かって、頼りない動きでありながらもしつこくしつこく、一匹の蛾がハラッ、パラッと音を立てながらぶつかり続けていた。 自分の足音しか聞こえないひんやりとした道を踏みしめながら、やっと自宅に辿り着きインターホンを押して……
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